執筆・連載情報②


アジアの食品流通事情②

食品新聞連載(2)

2019年12月4日掲載 1面です。



 

書き下ろし原稿は下記からご確認ください。


海外で小売業をしていると日本とは異なる商習慣が多々ある。まず、何でもかんでも返品される返品文化が残っている。小売側の責任による汚損品や破損品はもちろんのこと賞味期限が残り少なくなった商品も返品されてくる。

 

極端な話だとこんな話もある。「初回100ケース納品。翌月100ケース納品。半年後に200ケース返品。」一定規模の小売チェーンは異なるが店頭陳列を食品メーカーが行うケースが実は多い。

 

スーパーマーケットやデパートに行くとプロモーターと呼ばれるスタッフがお店に多く立っている。メーカー側が採用しコストを持っている店頭販売員が大勢店頭に立っている。その店頭販売員兼陳列要員であるプロモーターは女性であるケースが多いが、彼女達はメーカーの社員であり、勤務先が小売店や飲食店となっている。

 

そのプロモーターやルートセールスの社員が陳列を行う。そのためプロモーターもルートセールスもいないメーカーの商品はバックルームにいつまでも置かれたままとなり、納品した商品が全て返品されるということが起こる。

 

そしてプロモーターとルートセールスの重要な業務の一つが発注である。在庫を数え、品切れが起こらないように発注依頼をお店のスタッフに依頼して注文伝票(PO・ピーオーPurchase Orderの略称)をもらって会社に連絡するという仕事が重要業務となる。

 

棚割りをしっかり守るという意識があるのは一部のチェーン店だけで、まだまだ棚割り管理ができていないためメーカーで発注管理と店頭管理をしっかりしないと店頭から商品がすぐに消えてしまう。そのためプロモーターが大勢店頭にいるのである。ルートセールスが店を回り御用聞きをするというのは私が小売業で勤務を始めた1980年代に似ている。

 

また、小売視点で言うと納品時の欠品や品切れが非常に多い。私がマレーシアで働いていた1990年代で食品の納品率は20%ほど。2000年代の台湾でも40%ほどだった。小売チェーンを2010年にラオスで指導した際は20%ほどだった。

 

納品率が低い理由は食品メーカーが日本のように多くないため配給制を取っているからという理由がある。欠品を前提としてあちこちから注文が多く取るため、製造数量を絞り込み、納品先を絞って欠品前提で製造するため在庫管理をする数少ない小売業ではいつも商品が不足していた。小売側の発注数に任せて納品すると大量の返品を受けるので数を絞るという理由もある。

 

小売が返品なしにすれば良いと思われるかもしれないが、私がマレーシアで勤務していた1996年に試験的に1店舗で返品なしの取り組みを開始したら、賞味期限切れの商品や汚損・破損品が大量に納品され大変な思いをした。とにかく日付の古い商品はその店に送り込めという指示が多くの食品メーカーで出されたため、いつも日付の古いが納品され苦労した。

 

海外は日本のような正直で性善説の国ではないので、そんなことが頻繁に起こる。

 

万引きも非常に多くシンジゲートという窃盗チームが大挙して高額商品を盗みにやってくる。そのため高額品は鍵のかかるケースに入れて販売したり空箱を店頭に置いてレジで商品を渡したりしていた。日本人責任者が変わると日本式が正しいと考えやり方を変更したがるので盗難しやすくなりシンジゲートが集まる店となり不明ロス率がどんどん上がる。現地を知らない新任の日本人責任者は日本視点で改悪ばかりする。

 

日本で0.1%といわれる不明ロス率が簡単に2%や3%を越えるくらいシンジゲートは脅威となる。マレーシア本社勤務中には全社の不明ロス対策をしていたが半年の不明ロス率が6%を超えた店もあった。

 

売場にいるプロモーターはシンジゲートの顔を知っており、プロモーターと何度も話し合い、信用してもらい、シンジゲートが来店すると全店にシグナルが出る仕組みを作りシンジゲート対策を進めると盗みにくい店になるので、シンジゲートは他の盗みやすい店に行くようになり不明ロスは下がる。

 

プロモーターは他の店のプロモーターと連絡を取っており、いまどこの店にシンジゲートが集まっているか知っている。そのような情報を持っているプロモーターと個人的な信頼関係を築いて情報をもらい不明ロス対策をすることが実はスーパーマーケットの管理者の重要な業務となるが、そんなことを知らない日本人管理職が新しく赴任すると隙だらけの店となり不明ロスが発生するそんな繰り返しである。


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